原子力空母配備計画と港内の浚渫工事

原子力空母配備計画と、港内の浚渫工事についての
港湾法37条協議

工事禁止仮処分申立書 http://cvn.jpn.org/cvn/pdf/mousitate_070913.pdf のHTMLバージョンより

米海軍横須賀基地は昭和48年以来、30年に渡って、米海軍の航空母艦が配備されその母港とされてきた。米海軍が海外で航空母艦を配備して母港としているのは、米海軍横須賀基地のみであり、それが原因で、米兵犯罪、航空機騒音、家族住宅建設問題等の様々な基地問題を発生させてきた。このような中で、平成17年12月米海軍は、平成20年夏に退役予定の重油を燃料とする通常型空母キティホークの後継艦として、横須賀基地に原子力空母ジョージ・ワシントンを配備すると発表した。原子力空母は、熱出力にして約60万キロワットの加圧水型原子炉を2基積み、ウランの核分裂反応によって発生したエネルギーを推進力として稼働する航空母艦である。しかしこの過程で発生した水蒸気を冷やして水に戻すために、海水を艦内に取り入れねばならず、そのために停泊地、旋回場所及び航路には通常の船舶、軍艦より遙かに深い最低15・24m(50フィート)の水深が要求される。(甲63・65)

従って横須賀基地に原子力空母を配備する為には、横須賀港内を現在の水深約13mから水深15・24mまで、堆積したヘドロ及び海底の岩盤を掘削して浚渫せねばならず、横須賀港の浚渫工事と横須賀基地の原子力空母母港化は、直接的な手段目的の、不可分一体の関係にある。そしてそのために平成18年6月15日に債務者(その担当部局は、横浜防衛施設局)は、日本国の予算により、横須賀港内の浚渫工事(以下『本件浚渫工事』と言う)を行うことを決定した。(甲26)

横須賀市長の原子力空母配備容認への転換しかし、債務者がこの横須賀港内の浚渫工事を行うためには、港湾法上の港湾管理者である横須賀市と協議し、その許可を得なければならない。蒲谷横須賀市長は当初、上記原子力空母配備に対して実質的に反対の立場をとり、それを公約として当選したが、(甲91)各方面からの圧力を受けて、平成18年6月14日に、それを容認する姿勢に転じてしまった。(甲27)そしてそれからは、債務者と共同歩調を取って、港湾管理者としての厳しい審査等を懈怠するようになってしまった。

本件浚渫のための環境調査についての協議そして債務者(横浜防衛施設局)は、まず平成18年8月3日、本件浚渫工事の準備行為としての台船による港内のボーリング、環境調査のための港湾法37条による水域占用協議申請を横須賀市に対して行い、横須賀市は多くの市民の反対にも関わらず、平成18年8月31日債務者に対して、この台船による港内のボーリング、環境調査のための水域占用協議に応じ、完了させて、許可してしまった。(甲28)

原潜ホノルルの放射能漏れ問題平成18年9月27日、米海軍横須賀基地に寄港していた原潜ホノルルの9月14日の出港時に、同艦周辺で採取した海水から放射性物質が検出されたことが文部科学省から発表された。そして10月5日文科省の専門家会議は、『ホノルルの原子炉内で生じた放射化生成物に由来する可能性は否定できない』と発表した。(甲61・62)

このように原子力艦が横須賀港に入港すれば、放射能を含む原子炉の一次冷却水等が漏れて、周辺の海水、そして海底の土砂や生物、さらには海洋生物を汚染して、債権者らが著しい被害を受ける具体的危険性がある。しかし蒲谷亮一横須賀市長は、『これ以上の原因究明を政府に求めるつもりはない。』としてそれ以上の追及をせず、この重大な事態を是認してしまった。(甲61)

環境調査によるヘドロからの汚染の検出平成18年12月1日、債務者(横浜防衛施設局)から横須賀市に対して、上記7に述べた浚渫工事のためのボーリング、環境調査の結果(平成18年9月実施)が提出されたが、その結果は、昭和62年のヘドロ調査と同様に、採取された横須賀港の海底のヘドロ、海水からダイオキシン、トリブチルスズ、水銀、砒素、鉛、硫化物が、相当量検出された。特に水銀は最高で0.0031mg/l、砒素は0.026mg/l 、鉛は0.024mg/l と、陸上であれば土壌汚染対策法による基準値を上回り、汚染対策が必要な値であった。そしてその値も上記12号バースの土壌汚染とほぼ対応していた。(甲29)

またダイオキシンが全てのヘドロから、最高で、含有量で39pg-TEQ/g、溶出量で0.92pg-TEQ/l 検出された。更に上記浦賀港で青潮を発生させ漁業被害を起こした原因の硫化物は最高で1,4mg/g検出された。これは水産資源保護の基準である水産用水基準(甲41)の基準である0,2mg/g の7倍であり、また上記浦賀港のヘドロの値(甲15)の2倍にのぼるものである。

本件浚渫工事計画についての協議の完了
一方多数の横須賀市民から、原子力空母に対する不安と、蒲谷亮一横須賀市長が上記汚染の存在等にも関わらず、港湾管理者としての厳しい審査等を懈怠して本件浚渫工事計画を許可してしまうのではないかという懸念から、原子力空母配備の是非につき住民投票を実施し、それを横須賀市の港湾法等の事務において尊重することを求める条例の地方自治法に基づく直接請求が、4万を超える市民の署名を行われた。

しかし蒲谷亮一横須賀市長はこれに消極的な意見を表明し、平成19年2月に横須賀市議会で、この条例案は否決された。しかしその後の3月に行われた市民アンケートでは、約3分の2の回答者が原子力空母配備に不安を持ち、反対であるとの結果が出ている。

にも関わらず、債務者(横浜防衛施設局)は、上記ボーリング調査等の結果に基づいて別紙地図1の茶色部分の横須賀港内の約30haの海域について、原子力空母配備のため水深を15・24mに掘り下げるべく、約60万 もの海底土砂を浚渫する平成19a年3月28日付工事協議書を作成し、3月29日に横須賀市に、本件浚渫工事についての港湾法37条による工事協議申請書を提出した。(甲34・35)

これに対して、本件浚渫工事による被害を懸念する債権者■を初めとする3名の漁業者が横須賀簡易裁判所に公害調停を申請した(同簡裁平成19年公第1号)が、債務者も横須賀市も話し合いを拒絶した。そして4月26日に横須賀市は、上記工事協議申請に対する協議を完了して許可してしまい、5月14日には上記公害調停も不調となった。(甲36)

これに対して、7月3日に、639名の原告による国を被告とする浚渫工事差止訴訟(本件の本訴)が提起された。また、横須賀市の上記工事協議申請に対する協議完了については、横浜地裁で、その許可要件を充たしていないことを理由に、横須賀市を被告とした協議取消訴訟が追行されている。(同庁平成19年行ウ第26号)疑惑の環境調査データの提出しかし、5月に債務者が行った、浚渫前の海底土砂の環境調査では、有毒な環境ホルモンであるトリブチルスズが、6ケ所のうち3ケ所で規制値ギリギリの19ng/l、ダイオキシンが最大で、含有量で16pg-TEQ/g、溶出量で9.1pg-TEQ/l (これは、平成18年9月の最大の溶出値の約10倍にあたる。)検出された。(甲38) また6ケ所とも近接した場所なのに、5月7日に水底土砂を4地点(bQ・4・5・6)、5月16日に水底土砂を2地点(bP・3)採取したとされているが、なぜ5月7日に近接した6ケ所全てを調査せずに、9日後に2ケ所だけを調査したのかが、不明であり(甲109の1)、しかも計量証明書(甲109の3)を見ると、水底土砂については、bPからbUまで、6ケ所とも5月10日受け付けとあって明らかに矛盾しており、検査データの捏造、基準を超えたための検査のやり直し、提出されていない検査データが存在すること等を強く示唆するものであった。(本訴で求釈明中である。)また6月10日には浚渫予定海域で、砲弾らしきものが発見された。(甲110)にも関わらず債務者はいよいよ、8月10日に、この原子力空母配備のための本件浚渫工事を着手したのである。(甲35、112)



3、被保全権利 
その1本件浚渫工事により債権者らが被る有害物質等による被害の人格権等による差止請求権債権者■は1で前述したとおり、横須賀港周辺の東京湾海域の別紙地図1の水色部分において底引網漁を行ってカレイ、スズキ、クロダイ、アイナメ等をとり、また紫色斜線部分においてミル貝、ナマコ、タイラ貝等の潜水漁業を営んでおり、年間約3500万円の水揚げをあげている漁業者である。債権者■らの行っている潜水漁業は、エアホースのついたヘルメットと潜水服をつけて漁船から浅場の海底に潜り、漁船からコンプレッサーで、エアホースを通じて空気を送り、何時間も潜って、海底のミル貝、タイラ貝、ナマコ等をとるものである。特にミル貝は浅場の砂地に潜っているため、漁船から高圧水をホースで送り、そのまわりの砂を掘って貝を傷つけないようにしてとるのである。(甲4)

債権者■らの操業する横須賀港周辺の東京湾海域は、豊かな漁場であり、たくさんの海洋生物が暮らしている。(甲5、6)特にミル貝は高級スシねたとして、キロ5500円、またナマコは中華料理の高級食材として、キロ1000円という高値で取引されている。このミル貝の潜水漁業は、かつて全国各地で行われていたが、埋め立てによって浅場の自然海底が消失してしまったために、とれるところがなくなってしまい、全国でもこれを行っているのは、ここだけ、債権者■らだけという大変貴重な漁業として、水産試験場等も注目しており、債権者■らも貴重なミル貝がいなくならないよう、海洋環境の保全と資源保護には細心の注意を払っているところである。(甲7)

そして、本件浚渫工事が債務者によって開始されると、後述するとおり、それによる著しい漁業被害を受けてその漁業を営む権利を侵害され、さらには本件浚渫工事による生命身体等が被害を受け、それらの権利が侵害される具体的危険性がある。債権者■■■■及び債権者■、同■、同■は、1で前述したとお り、横須賀港に隣接する長浦港内(別紙地図1の橙色部分の海域)及び横須賀港の周辺の水色・橙斜線部分の海域等において、海釣りをしている。そして、本件浚渫工事が債務者によって開始されると、後述するとおり、それによってその活動への被害のみならず、生命身体等が被害を受け、それらの権利が侵害される具体的危険性がある。

債権者■(略)は1で前述したとおり、横須賀港内を含む別紙地図1の赤斜線、橙色、水色・橙斜線の部分の海域で活動している。上記債権者らはヨコスカ平和船団という団体のメンバーであり、1986年頃から海はみんなのものであるという基本理念のもと、横須賀本港内及び隣接する長浦港内において海に親しむことができるよう、月1回以上、誰でも参加できる形で、プレジャーボート、ヨット、ゴムボート、カヤックなどを使ってヨット教室、海岸と海の清掃活動、近くの第2海堡等へのクルージング、洋上からの基地、艦船見学や海上デモ等のレクリエーション及び社会的活動に取り組んできており、その地道な活動は、全国や外国の市民、報道機関からも評価され、利用されている。(甲11)そして、本件浚渫工事が債務者によって開始されると、後述するとおり、それによってその所有する船舶等やその活動への被害のみならず、生命身体等が被害を受け、それらの権利が侵害される具体的危険性がある。(甲9・10・13)

2に述べたとおり、横須賀港内には有毒物質を含むヘドロが大量に堆積されている。昭和62年の海底土砂調査でも水銀、砒素、シアン化合物、PCBが検出され(甲19)平成10年の12号バース周辺のヘドロ調査でも、鉛、砒素、水銀、PCB、ダイオキシン、有機スズが検出され、油膜のある黒色のヘドロ状を呈し、有機物を含んだ腐敗臭気が感じられた。(甲21)そしてその影響で港内では、奇形の、病気の魚がたくさん釣れており、その身体や内臓から、上記と同様に鉛、砒素、水銀、PCB、有機スズ等が検出されている。

神奈川県内の医師団体である神奈川県保険医協会は、継続的に横須賀港内で釣れる魚類調査の健康調査を実施してきたが、平成11年以降毎年相当高い割合で港内で釣れる魚類に皮膚の潰瘍、背骨の変形、魚の奇形等が発生していることが判明した。即ち、甲23、24及び107の野本哲夫医師の意見書7頁の魚類奇形調査結果によれば、平成10年には横須賀港内で釣れたハゼの外観、X線とも異常は0%であったのに対し(平成11年に12号バース護岸工事が始まり、平成12年には護岸崩落事故があった。)

平成11年には、外観異常が14%、X線異常が32%平成12年には、外観異常が25%、X線異常が60%と増加し平成13年には、外観異常が20%、X線異常が13%平成14、15年には、ハゼの外観、X線とも、異常は0%平成16年には、外観異常が0%、X線異常が1%と一旦低下したものの(平成15年11月から平成17年まで、12号バース延長のための杭打工事等が行われた。)平成17年には、外観異常が75%、X線異常が79%と再び急激に増加している。野本哲夫医師はこのハゼ異常の増減につき、以下のように指摘している。(甲107 )

『特徴的なのは空母のバース工事が開始された1999年12月から岸壁が崩落した2000年5月の後に実施した2000年の魚類実態調査でのハゼX線異常率は60%(31/52)、外観異常率は25%(13/52)に上る結果となっている。この崩落後に、お化けハゼ、尾ひれの欠けが発生、また、2003年?2004年6月までの海底工事(長さ20mの杭打ち308本)後の2005年調査でも、ハゼのX線異常率は79%(62/79)、外観異常率は75%(59/79)に上り、原因は、バースの岸壁崩落事故と基地に隣接するバース拡張の海底への杭打ち工事にあることは明白である。』『2005年基地前のハゼ奇形79%の年には基地から4km離れている市民海辺つり公園においてハゼ1匹中1匹、ネズミゴチ1匹中1匹、ギンポウ2匹中1匹の100%、100%、50%の異常率であり、3種類の魚に同時に起きたこの異常は偶然ではありえない確率であり、基地周辺広く汚染が見られると考えるべきである。

この原因は、308本の杭打ちにあることは論をまたない。』そしてハゼ専門家として高名な元横須賀市自然・人文博物館館長の林公義氏は、甲24号証を見て『バースの岸壁崩落事故後とバースの杭打ち工事後にいずれもマハゼの骨曲がり異常の多発現象が見られ、傾向としては汚染された泥の中に棲息する餌が、工事等により海底から巻き上がった時に捕食していることにも関係していると考えられる。』と指摘している。(甲107 7頁)

同協会が、魚の内臓に含まれる重金属等の有害物質を分析したところ、そこからは水銀、砒素、鉛、六価クロム等が検出され(甲23、24)、丁度12号バースの汚染状況、港内のヘドロの汚染状況(甲20)と一致していることがわかった。即ち、甲107の野本哲夫医師意見書は、以下のように指摘している。『2005年に実施した魚類実態調査において、ハゼの砒素分析を行ったところ、基地(ヴェルニー公園)前で釣れたハゼの可食部については砒素1.0ppm(内臓については1.3ppm)を検出。海辺つり公園の海タナゴ可食部も1.0ppm、鶴見川で釣れたハゼの可食部については砒素0.4ppm(内臓については0.8ppm)、ハゼの可食部を比べてみると、砒素は基地、海辺つり公園とも同じ汚染濃度であり、かつ鶴見川の2.5倍あることが分かる。

この意味するところは基地の土壌は砒素濃度が特に高いと調査(甲第20号証)で判明しており、基地が汚染源であり、また横須賀港は、基地以外に流入する川や排水がない環境にあるので、魚の異常と重金属等の汚染原因は基地であることが容易に分かる。』そしてこれらの事実から、野本医師は、浚渫工事はバース工事の規模をはるかに超える多量の海底土砂を浚渫するものであるから、周辺海域で前述の魚類の異常を超える汚染被害が発生するおそれが極めて高く、浚渫工事は中止されるべきであることを強く指摘しているのである。(甲107 6頁)

債務者が平成18年9月と平成19年5月に本件浚渫工事のために行った海底土砂の環境調査(甲29・38・109 )によれば、横須賀港の本件浚渫予定海域の海底土砂の中には、

@ 平成18年9月には猛毒の、プランクトンや海洋生物に摂取されてさらに濃縮されるダイオキシンが全てのヘドロから、最高で、含有量で39pg-TEQ/g、溶出量で0.92pg-TEQ/l検出された。さらに平成19年5月に行った海底土砂の環境調査(甲38)によれば、含有量で16pg-TEQ/g、溶出量で、従前の約10倍の9.1pg-TEQ/l 検出された。

A 攪拌され海水と混ざることによって、硫化水素を発生させ、青潮の発生による海水の酸欠状態の原因となる有毒物質である硫化物が平成18年9月には最大で1.4mg/g 、含まれていた。(平成19年5月には最大で0.5mg/g )これは前述の青潮を発生させ、著しい漁業被害を発生させた平成6年の浦賀港内の海底土砂の0 ・794mg/g と比較すると、ほぼ2倍汚染されており、また水産資源保護の基準である水産用水基準(甲41)の基準である0,2mg/g の7倍にのぼった。

B 毒性が高く、横須賀港内で釣れた魚の奇形や病気の原因となっており、プランクトンや海洋生物に摂取されてさらに濃縮される水銀が平成18年9月には最高で0.0031mg/l、砒素は0.026mg/l 、鉛は0.024mg/l 検出され、陸上であれば土壌汚染対策法による基準値を上回り汚染対策が必要な値であった。また環境ホルモンとして魚介類に重大な影響を与えるトリブチルスズが、平成18年9月には最高で15ng/l検出された。さらに平成19年5月に行った海底土砂の環境調査(甲38)によれば、6ケ所の内3ケ所で規制値ギリギリの19ng/l検出された。これらの海底に堆積している重金属化合物は、浚渫や工事などで海底がひっくり返されると、海水中に溶け出て、漁業や人体への被害をもたらすのである。(甲55)

C 海底土砂は数mにわたって、大量の粒子の細かいヘドロが堆積しており、甲33にあるように、これらの大部分は粒子の細かい粘土ないしシルトから成り立っている。平成6年の浦賀港内の漁業被害と同様に、これらを浚渫すると大量の濁りが発生し魚貝類の呼吸機能等に大きな障害を与え、漁業被害をもたらすおそれも大きい。

前述したように、過去の平成6年の浦賀港の住友重機械による浚渫工事が、債権者■の所属する横須賀市東部漁業協同組合組合員に重大な漁業被害をもたらした。(そのイメージとして 甲17の写真参照)

@ 即ち、同社は漁業者の操業海域のすぐそばで約15万 のヘドロの浚渫作業を、a1)グラブによって、海底のヘドロをつかみあげてすくい、(この過程でまずヘドロをすくうことによる大量の濁りが発生する)2)ヘドロをつかんだグラブをクレーンで海水中を海上まで持ち上げ、(この過程でも、多量のヘドロが海水に溶けて濁りが発生する)3)海面上でクレーンを旋回させて土運船のバージに積み込む。(この過程でも、海面上に出た瞬間から、ヘドロの溶けた海水が、大量に落ちる)という各段階を繰り返し行うというものであり、各段階ごとに大量のヘドロによる海水の濁り及び汚染物質の海水への攪拌を発生させたのである。

A 同社は浚渫作業に際して、浚渫船を汚濁防止膜で囲ったが、この汚濁防止膜も海水は透過するし、海水に溶け込んだ化学物質までシャットアウトする訳ではなく、海水の濁りはやはり一定程度外に出てくるので、その効果は不完全なものであり、それ以外には何ら汚濁、汚染防止策は取っていなかった。そこで大量の汚染汚濁された海水が、外に拡散し、湾内から湾外に流れる潮流にのって操業海域へ流れていき、被害が発生したのである。(甲14)

B この浚渫したヘドロは、非常に粒子が細かく、その浚渫によって大量の濁りをもたらすものであったし、硫化水素等の有害物質が多量に含まれていた。(甲15)そして漁業者は浚渫作業場所から発生した濁りが、潮流にのって操業海域の方に流れていき、海水が濁って、乳白色となっていた状況を、何度も現認していた。海水が乳白色に変色したということは、東京湾の青潮と一致し、乳白色の成分は硫化物が酸素と化合することにより形成される硫黄の微細粒子で、硫化物を含むヘドロ上の海水に酸素が溶け込むと、その海水は乳白色になる。その海水は硫化物の存在と酸素不足のため、魚介類にとって極めて危険なものである。

ヘドロが攪拌、溶解された海水は、1)ヘドロの細かい粒子を海水ごと口から摂取することによるえらの目づまり、2)ヘドロの成分の溶解による海水中の酸素不足、3)硫化水素などの有害物質の単独あるいは複合作用による呼吸効率の低下(硫化水素は魚類の酸素運搬を担うヘモグロビンと結合しやすく酸素供給を阻害する)4)魚介類がヘドロを明らかに嫌ってパニック、回避行動をとる、等のため漁業者の操業海域の魚介類の著しい被害、減少を招いたのである。(甲16 風呂田利夫意見書参照)

本件浚渫工事は、
@ 上記造船所のある浦賀港 内で行われたヘドロの浚渫が、湾口部の外で漁業を行う漁業者に著しい被害を 与えたのと、基本的に環境的、地形的条件も、汚染状況も類似しており、本件ヘドロの大量浚渫により、 同様の著しい被害が発生する蓋然性は高い。

A しかも浦賀港内の浚渫は約15万 のヘドロを、約3ケ月間行われたのに対して、a本件浚渫は、約60万 のヘドロという他にも例をみない膨大な量を、約1年間ものa長期間行うものである。これは甲32の他の浚渫等による海洋投棄の土砂量と比較しても明らかである。(甲35)

B ヘドロに含まれる有害物質も、浦賀港では最大で水銀1・37mg/kg 、硫化物 794mg/kg に対して、(甲15)横須賀港では最大水銀4・0mg/kg (甲19の昭和62年の調査では最大で11・0mg/kg)硫化物1400mg/kg (甲29)等と、より汚染されている。しかもその汚染物質は甲29、19に見られるように、ダイオキシンから、水銀、砒素、鉛、トリブチルスズ、硫化物等多岐にわたり、浚渫水域全体に渡っている。そして、前述のとおり、横須賀港内で、その毒性による魚介類の奇形、病気等の被害を発生させているのである。(甲23、24、107)

C 潮流は、東京湾内においても、24時間のうち、半分は外から内へ、半分は内から 外に流れ、それは浦賀港でも横須賀港でも同様である。(甲3、18の潮流図参照)従って浦賀港で、大量の海水の濁り、有毒物質、硫化水素による無酸素水塊が、内から外に流れる潮流に乗って、湾のすぐ外の漁業者の操業水域に到達して被害を与えたように、横須賀港でも、大量の海水の濁り、有毒物質、硫化水素による無酸素水塊が、内から外に流れる潮流に乗って、湾のすぐ外の債権者らの操業水域に到達して被害を与えることとなる。

D しかも、浦賀港の場合には、単純なV字型の湾内に潮流が出入りするのみである。これに対して、横須賀港の場合には、新井の堀割と呼ばれる運河で隣の長浦港とつながっているから、潮流はC字型に、新井の堀割を通って両港を行き来して、より強く流れ込み、吸い出されることとなるので、潮流の流れ、影響はより強くなることを、債権者■らは、体験的に知っている。(甲3、7、8)

E 甲108の海洋環境学者松川康夫意見書も、『浚渫海域から横須賀港口の潜水漁業の行われている漁場までの距離は約2kmです。これは、最大で毎秒10cmの下げ潮に風や河川水で容易に駆動される毎秒5cm程度の恒流が加われば、浚渫海域の汚染物質が下げ潮の間(6時間)にそのまま到達してしまう距離(下げ潮の流程1.4km+恒流の流程1.1km)の範囲内です。海水に溶解あるいは懸濁して海水と同じに挙動する汚染物質が、下げ潮によって、上記の漁場に到達する時の濃度は・・希釈は2・8倍、濃度は2・8分の1程度と見積もられます。要するにあまり希釈されず、濃度もあまり減らないということです』と指摘している。

F 甲107の医師野本哲夫意見書も、上記のとおり、過去横須賀港内で工事が行われた時期の後に、ハゼの異常が高率で発生、増加してきた事実に基づき、本件浚渫工事はバース工事の規模をはるかに超える多量の海底土砂を浚渫するため、従前の魚類の異常を超える汚染被害が、周辺海域に発生するおそれが極めて高いことを強く指摘しているのである。(甲107 6頁)

G さらに債権者■が主として取っているのは、ミル貝タイラ貝やナマコであり、 債権者■■らが主として釣っているのは、ハゼ等である。ミル貝タイラ貝ナマコは海底の砂の中で暮らし、大きく移動することはできないから、他の魚に比べて、より浚渫による濁り、汚染の被害を受けやすい。(甲7)またハゼも砂の中で暮らすから、他の魚に比べて、より浚渫による濁り、汚染の被害を受けやすいのである。(甲107 6頁)

H 従って上記浦賀港での浚渫が、漁業者に大きな被害を与えたのとのと全く同様、いやそれ以上に、汚染されたヘドロを大量に掘削攪拌することにより、海水の濁り、硫化水素による青潮の発生による酸欠状態、有毒物質による汚染等を発生、拡散させ、それが潮流に乗って隣接した港外の債権者■らの操業、活動する海域に流れていって重大な漁業被害等を発生させる具体的危険性が極めて大きいのである。

硫化物、硫化水素について
@ 攪拌され海水と混ざることによって、硫化水素を発生させ、青潮の発生による海水の酸欠状態の原因となる有毒物質である硫化物が、本件浚渫予定水域のヘドロには多量に、最大で1.4mg/g 含まれている。これは水産資源保護の基準である水産用水基準(甲41)の0,2mg/g の7倍にのぼり、著しい漁業被害を発生させた平成6年の浦賀港内の海底土砂の0 ・794mg/g (甲15)と比較しても、ほぼ2倍汚染されていることとなる。そして特に平成10年の12号バース周辺のヘドロの採取・観察結果は、『油膜のある黒色のヘドロ状を呈し、有機物を含んだ腐敗臭気が感じられた。』としている。(甲21)また債権者■■らも、横須賀港内で、ヘドロをボートのスクリューが巻き込んだ時に、腐ったようなヘドロの悪臭を感じて、気持ちが悪くなったことがあると言っている。(甲13)

A 硫化水素は、空気より重く、無色、水によく溶け、弱い酸性を示し、腐敗した卵に似た特徴的な刺激臭がある。硫化水素は、硫黄を含む硫酸塩が、嫌気性細菌によって還元されて発生し、処分場 等の他、水が停滞しやすい水域の還元層が発達する海底でもできる。金属イオンを含む水溶液と反応して、金属硫化物の沈殿を生じる。底泥の黒色化は、金属硫化物に起因している。(甲42、44)硫化水素は酸化作用によって、生物の呼吸作用に障害を与え、酸欠状態によって死に至らしめるだけでなく、水中の溶存酸素を消費し、貧酸素水塊を発生させる。(甲42、43)上記12号バース周辺のヘドロの『黒色のヘドロ状を呈し、有機物を含んだ腐敗臭気が感じられた。』との観察結果や、債権者■■らが、ヘドロを巻き上げた時に腐ったような臭いで気持ち悪くなったことは、硫化水素、硫化物を相当量含んでいることと符合しているのである。

B このような硫化水素を含む海底の貧酸素水塊が、気象条件等によって上昇し移動するのが青潮と呼ばれる現象であり、東京湾では度々発生し、大変な漁業被害をもたらしてきた。(甲43、44)しかし、これら硫化物を多量に含むヘドロを60万 も大量に浚渫すると、硫化水素aが発生して海水中の酸素を奪い、貧酸素水塊を発生させ、人工的な青潮が発生する。そしてそれが周辺の海域に広がって、魚介類が酸欠によって大量に死滅したり、いなくなったりして、漁業者らに著しい被害をもたらす危険性が大きい。このことは、上記浦賀港の被害例をまつまでのこともなく、多くの実例と研究により公知となっている。(甲29、41、43、44、14、15、16)

甲108の海洋環境学者松川康夫意見書も、『CODと硫化物は海水中の酸素を消費するもとですが、浚渫海域の海底土にはこれらの濃度が高く(甲29)、海底土に大量に蓄積されています。これらが浚渫によって解放されると海水に溶けた酸素を消費して貧酸素水塊が生じる可能性があります。またこの貧酸素水塊は汚濁防止膜を透過するので魚介類を殺し、その遺体が新たな酸素消費の原因となって貧酸素水塊がさらに拡大するという悪循環が生じる可能性もあります。このために港内はもちろん港口周辺の漁場に貧酸素水塊が容易に及び、漁業に悪影響を及ぼすことが懸念されます。』と指摘しているのである。

C またこの硫化水素、硫化物を含む大量のヘドロを浚渫、攪拌して、海底から大量に一挙に水面上に露出させることにより、大量のヘドロから、高濃度のプルーム状態の硫化水素ガスが発生する。そして硫化水素ガスとなって空気より重いので、浚渫現場周辺に滞留するか、風によって風下へプルーム状態で移動することとなる。硫化水素の人体への毒性は甲42等に示されているとおりであり、呼吸作用に障害を与え、酸欠状態によって死に至らしめるものである。平成11年には福岡県の廃棄物処分場において、硫化水素ガス中毒によって作業員3名の死亡事故が発生している。(甲45)

平成17年には秋田県の温泉地で硫化水素中毒のため、3名が死亡した。(甲47)平成19年6月にも、高松市で古井戸を点検中に中に溜まった硫化水素による中毒事故が発生している。(甲48)債権者■■も浚渫予定水域の横須賀港内で、ボートのスクリューがヘドロを巻き上げた時に、腐敗臭がして気持ちが悪くなったことがあると述べている。
(甲13 )従って、何らの対策もしなければ、硫化水素ガスによる中毒によって、陸上で硫化水素による中毒事故が発生しているのと同様に、浚渫によって発生した高濃度の硫化水素ガスのプルームが現場周辺に滞留するか、風によって風下へプルーム状態で移動することによって、浚渫現場周辺の水域等でヨットやボートで活動し、また潜水漁業や底引網漁を営み、海釣りをする債権者らが、高濃度の硫化水素ガスを吸引することによって中毒となり、生命身体の著しい危険にさらされる危険性があるのである。(甲45・46・47・48等)

ダイオキシンについて
@ 猛毒のダイオキシン類が、本件浚渫予定海域の全てのヘドロから、最高で、含有量で39pg-TEQ/g、溶出量で0.92pg-TEQ/g検出された。(甲29)さらに平成19年5月に行った海底土砂の環境調査(甲38)によれば、含有量で16pg-TEQ/g、溶出量で、甲29の8倍以上の7.9pg-TEQ/l 検出された。

平成10年の12号バース周辺のヘドロ調査でも、ダイオキシン類は含有量で21pg-TEQ/gと 22pg-TEQ/g 検出されている。(甲21) A ダイオキシンは環境中では土壌や底質に分布し、また魚貝類によって濃縮される。生体内半減期が長いため、人体にも蓄積されやすく、魚貝類からの摂取が多い。ダイオキシンは近時社会的に問題となっているように、人体に対して皮膚毒性、免疫毒性、生殖毒性、催奇形性、内分泌特性、発癌性等、様々な健康被害をもたらす、微量でも極めて人体に有害な物質である。(甲21、49、50等)

Bこの猛毒のダイオキシン類が、ヘドロを60万 も大量に浚渫することによって、海水a中に攪拌され、プランクトンや海洋生物に摂取され、食物連鎖によって濃縮されていく。それを海釣りをする債権者らが摂取すると、債権者らの生命、身体の著しい危険性をもたらす。また、潜水漁業をする債権者■が水中で触れたり、気化することによってヨットやボートで活動し、また潜水漁業や底引網漁を営み、海釣りをする債権者らが吸い込むことによって、債権者らが生命身体の著しい危険にさらされたりするおそれがある。

債務者の汚染対策も極めて不十分なものである。
@ 債務者は、本件浚渫工事が上記のとおり、海底土砂に汚染物質が検出されて多大な環境の悪化が予測されるのに、本件浚渫工事の周辺海域に与える影響についての環境アセスメントも行っていない。過去に浦賀港におけるSHIリゾートの行った浚渫工事に際しては、環境の悪化の有無の判断に必須と思われる当該水域についての潮流調査や生物調査などをSHIリゾートは行った上で許可を求めているが、(甲18)債務者は、行政機関であり、私企業をはるかに上回る能力をもちながら、今回当該浚渫海域におけるこのような総合的環境影響評価を行っていないのである。

A 債務者は、本件浚渫工事が上記のとおり、海底土砂に汚染物質が検出されて多大な環境の悪化が予測されるのに、汚染拡散を防止するための対策も極めて不十分なものしか準備していない。前述の平成6年の浦賀港における住友重機械工業が行った浚渫工事に際しても、同社は浚渫船に汚濁防止膜を施したが、掘削面の濁り、船上での溢れ水、汚濁有害物質の透過、潮流による汚染の拡散によって全く被害の発生については無力であった。(甲14、15、16)

B 本件においても、汚濁防止膜は、甲37の性能説明書にもあるとおり、合成樹脂製のものであり、濁りのもとになる粒子は遮断することができるが、透水性はあるので水に溶けたダイオキシン、水銀等の重金属、硫化水素イオン等を遮断することはできないのである。従ってこれらの水に溶けた有毒物質は、膜外の海水にどんどん拡散していくこととなる。甲108の海洋環境学者の松川康夫意見書も、『汚濁防止膜が完全に機能したとしても、貧酸素を引き起こす硫化水素や赤潮を引き起こす栄養塩などのように、海水に溶解する物質の拡散を完全に防止することはできません。また、予想外の事故によって汚濁防止膜が破れたり、隙間が開いたりすることがないとは言い切れません。』と指摘している。また甲107の神奈川県保険医協会公害対策部長の医師野本哲夫意見書も、『バース工事のとき二回とも海底への幕張はしたが、結果、魚の奇形は起きてしまった。浚渫工事の幕張も同じ結果をもたらすことは明白である。海底をかく乱するときの海中への汚染物質の拡散は防げないことを証明している。』と指摘している。

C またヘドロには、ダイオキシンや、水産用水基準の7倍硫化物が含まれて、浚渫によって大量のヘドロが水面上に一挙に露出されれば、ダイオキシン、硫化水素ガス等が発生するおそれがあり、現にそのような対策が旧厚生省によっても検討されているのに(甲45)、債務者は有毒ガス等の対策を全くとっていない。 D また土運船から、ガット船への積み替え作業については、たった3mの長さの汚濁防止膜をつり下げるだけである。そして浚渫土砂は大量の水分を含んでいるのであり単に防水シートを置いただけで、汚濁が海面に落下して周囲に拡散するのを防ぐことはできない。(甲35)しかも、工事着工早々、債務者はそれさえも遵守していないことが判明したのである。(甲113)

E 今日ヘドロ中の汚染物質が浚渫により拡散されて被害を生む事例が多発して公知の事実となり、ヘドロを浚渫する前にまず現場で無害化処理を行った上で浚渫工事を行うことが、有効な対策として一般化しつつある。(甲52)更に債務者は本件に先立つ12号バースの汚染対策については、まず現地で汚染の不溶化、遮水工を施した上で、整備工事を行っている。(甲20)にも関わらず、債務者は本件につき、根本的な事前の無害化処理ではなく、対症的な汚濁防止膜しか準備しておらず、ヘドロ中の汚染の拡散による被害のおそれは明らかである。

F 更にこの横須賀港内で、過去に債務者が行ってきた汚染対策工事が,却って汚染を拡散するずさんなものであって、汚染を深化させてきた事実が重要である。今回の浚渫工事に先立って、米海軍の空母の停泊してきた12号バースの陸上の土壌から、水銀、砒素、鉛等の有害物質が発見されたため国は横須賀市との港湾法協議を経て、平成12年から、汚染対策兼護岸整備工事を開始したが、平成12年5月19日、汚染対策のための工事中に既存の護岸が崩壊して、鉛等の重金属によって汚染されている土砂約100 が海中に流失して、付近の海水を著しく汚染し、国の基準aの4・8倍の鉛が、海水中から検出されるという事故が発生した。(甲22)

神奈川県保険医協会の野本哲夫医師は、もともとの汚染に加えて、これらの汚染対策工事による汚染の拡散、深化が、横須賀港内のハゼ等の魚の背骨等の湾曲、奇形増加の原因となっていることを指摘しているのであり、同様のことが繰り返され、重大な損害を発生させるおそれも大きいと言わねばならない。(甲23、24、107)

浚渫によって債権者■らが被る著しい漁業被害のおそれ
債権者■は1で前述したとおり横須賀港の港湾区域内である別紙地図1の水色部分の海域において漁業を営んでおり、また紫色斜線部の浅場の砂地の海底に潜って潜水漁業をし、年間約3500万円の水揚げをあげている。この海域は豊かな漁場であり、債権者■らにとって不可欠の漁業の場である。(甲4、5、6) もし債務者によって、横須賀港内の別紙地図1の茶色部分の海域において60万 にaも及ぶ大量の海底土砂の浚渫工事が開始されると、前述のように数々の有害な物質を含むヘドロが攪拌されて、海水に溶け込んで汚染が拡散させ、それが港内から港外に流れる潮流に乗って、隣接する債権者■らの操業する海域に流れていき、債権者らに重大な漁業被害を発生させるおそれは極めて大きい。(甲14の例参照)

特に、債務者が本件浚渫工事のために行ったヘドロの環境調査(甲29、38)によれば、 横須賀港の海底土砂の中には、

@ 猛毒のダイオキシン類が、全てのヘドロから、溶出量で最高9.1pg-TEQ/l 検出されまた毒性の高い水銀が最高で0.0031mg/l、砒素は0.026mg/l 、鉛は0.024mg/l 検出され、環境ホルモンとして魚介類に重大な影響を与えるトリブチルスズが、3ケ所で19ng/l検出されており、魚介類はこれらの汚染の影響を受けて、水揚高が減少する。またこれらが海底の魚貝類に摂取されて食物連鎖によって濃縮され、とれた魚貝類から検出されれば、風評被害もあり、とれた魚貝類は全く売り物にはならなくなってしまう。(甲7)

甲108の海洋環境学者松川康夫意見書も、『植物は海水の10倍、植物を食べるウニ、ナマコ、アワビ、サザエは海水の100倍、アワビ、サザエを食べるタコなどは海水の1000倍、また植物プランクトンは10倍、植物プランクトンを食べる動物プランクトンは100倍、動物プランクトンを食べる小魚類は1000倍、小魚を食べるスズキなどは10000倍、といった具合に生物は汚染物質を体内に濃縮して蓄積します。港内の奇形ハゼなどに比較的高い濃度で検出されているヒ素、ダイオキシン、鉛、スズなどの魚介類への影響や食品としての汚染が心配されます。』と指摘しているのである。

A 攪拌され海水と混ざることによって、硫化水素を発生させ、青潮の発生による海水の酸欠状態の原因となる有毒物質である硫化物が最大で1.4mg/g 含まれており、著しい漁業被害を発生させた平成6年の浦賀港内の海底土砂の0 ・794mg/g と比較するとほぼ2倍汚染されており、また水産資源保護の基準である水産用水基準の基準である0,2mg/g の7倍にのぼる。従って、これらのヘドロを浚渫すると、硫化物が攪拌されることによって硫化水素が発生し、それが海水中の酸素を奪い、青潮が発生し、それが潮流に乗って債権者らの操業海域にも流れていって、魚貝類を死滅させて、著しい漁業被害が生じる具体的危険性が強い。(甲42、43、44、14、15、16、7、108)

B 60万 もの浚渫土砂の大部分は、粒子の細かいシルト層であり、これらを浚渫するaと大量の濁りが発生して債権者らの操業海域に流れてきて、その結果海底の魚貝類、特に水管を出して酸素を取り入れているミル貝は、水管がつまってしまい、その他の魚介類も、えらが詰まってしまって死滅するか、当該海域から逃げていなくなってしまう。また同時に債権者らの視界が全くきかなくなって、潜水漁業ができなくなってしまい、著しい漁業被害が生じる生じる具体的危険性が強い。(甲33、16、7、108)

浚渫によって債権者らが被る生命身体への被害のおそれ
@ 浚渫工事によって、ダイオキシンを含む大量のヘドロを浚渫、攪拌して、海底から大量に一挙に水面上に露出させることにより、ヘドロに含まれる猛毒のダイオキシン類が気化し、港内で活動する債権者■■らが、これらの有毒ガスを吸引し、生命身体の著しい危険にさらされるおそれがある。また潜水漁業中の債権者■らにダイオキシンが触れることによって、債権者らが生命身体の著しい危険にさらされるおそれがある。

A またこの硫化水素、硫化物を含む大量のヘドロを浚渫、攪拌して、海底から大量に一挙に水面上に露出させることにより、大量のヘドロから、高濃度のプルーム状態の 硫化水素ガスが発生する。そして硫化水素ガスとなって空気より重いので、浚渫現場周辺に滞留するか、風によって風下へプルーム状態で移動することとなり、債権者■■らが硫化水素ガスを吸引して中毒状態となって、生命身体の著しい危険にさらされるおそれがある。(甲45、47の死亡事故参照)債権者■■らは横須賀港内で、ヘドロをボートのスクリューが巻き込んだ時に腐ったようなヘドロの悪臭を感じて、気持が悪くなったことがあるのである。(甲13)

A 浚渫工事によってヘドロに含まれるダイオキシン、水銀、砒素、鉛、トリブチルスズなどの有害物質が潮流に乗って拡散され、食物連鎖等により周辺海域の魚に高濃度で蓄積されるようになり、それを釣って食べている債権者■■、(略)らが、生命身体の著しい危険にさらされるおそれがある。(甲49・50・121 )甲107の野本哲夫医師の意見書は、以下のように指摘している。『過去10年間の東京湾魚類調査の最高異常率4%から見て、60%、79%の異常率の基地周辺の魚を食べ続けると住民の健康被害を起こすことは間違いない。水俣病では魚の奇形、猫の狂い病が見られたことが教訓として挙げられている。また、内蔵の砒素含有率のほうが高くなっているが、貝など海底で棲息している魚介類も多くあり、内臓ごと食すものもあることを考えると、人間への危険性はますます高くなると指摘できる。』『ハゼ内臓は、PCB可食部暫定基準値3.0ppmを超え、延べ5年調査中2年、2001年は4.40ppm、2004年は5.1ppmであった。小魚は内臓ごと食べる習慣のある日本では、警告を市民に発すべきであるが、横須賀市と国は何ら対応をしていない。』

B また横須賀港内の海底には終戦前後に、米軍の爆撃や、旧海軍の弾薬の投棄等によって、不発弾が存在する可能性は否定できないのであり、現実に本年6月5日に砲弾らしきものが発見された。このような海底を60万uも浚渫すれば、それらが爆発して、特にその海域で活動する債権者■■らが、生命身体の重大な損害を被るおそれも強く存する。(甲53、54、111)

D 浚渫工事及びそれに伴う狭い横須賀港内の航路上での土運船からガット船への土砂の積替作業が行われることにより、債権者■■、(略)らの活動する航路が狭くなって航行に支障が生じ、現実に衝突の危険が増加して、生命身体の著しい危険にさらされるおそれがある。(甲9・31)現実に昭和63年には、横須賀港の港湾区域内で、釣り船と自衛隊の潜水艦が衝突事故を起こして、多数の死者を出している。(甲55) また債権者らも、横須賀港内で活動中に、米軍の小型船舶の接近によって、衝突の危険、物損被害を受けた ことがあるのである。(甲12)


工事禁止仮処分申立書
http://cvn.jpn.org/cvn/pdf/mousitate_070913.pdf
のHTMLバージョンより




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